このコラムでは、国試最大の難敵である『物理』の位置づけと対策について、お話していきたいと思います。物理が大好きな学生、または物理がすこぶるできる学生を除いて、薬剤師国家試験の中で最も攻略が難しい科目が『物理』になります。『物理』を難しく感じる原因は3つあります。
1.出題範囲が広い
『物理』と一言でいっても、結合・相互作用など有機化学がらみの範囲、分析法の原理など機器分析がらみの範囲、放射化学、物理化学、定量分析と出題範囲が非常に広いです。大学の低学年で習うめんどくさい科目の詰め合わせパック、それが『物理』なのです。
2.得点化するまでに時間がかかる
『衛生』や『法規・制度・倫理』は、知っているだけで解ける問題もたくさんあります。しかし、物理は知っているだけで解ける問題が非常に少ないです。物理は、「知っている→理解している→考えて問題が解ける」と得点化するまでに要する時間がかかるので厄介です。
3.勉強したのに出題されない
『物理』で一番困るのが、頑張って広い範囲を相当な時間をかけて勉強したのに、出題されない範囲が多いということです。
『衛生』、『薬理』、『薬剤』は、薬剤師国家試験出題基準対応表(*)の小項目に従って、どの範囲も毎年出題されますが、『物理』は、毎年出題される項目が入れ替えられるため、勉強すればするほど点が取れるとはならないのです。
そもそも、『物理』は、出題範囲が広いにも関わらず、出題される問題数が20問しかないので、必然的にやってもやってもコンスタントに得点化されない科目なのです。
(*)一般的に薬剤師国家試験出題基準対応表は、国試の参考書の巻頭に記載されています。
それでは、出題範囲が広く、得点化するまでに時間がかかり、勉強したのに出題されない、厄介科目の『物理』をどう攻略するのか。『物理』の学ぶべき範囲と取り組み方をご紹介いたします。
1.優先順位を決める
『物理』は、やみくもに勉強しても点数は上がらない科目なので“出題頻度が高い範囲”と“他の科目にも応用が利く範囲”を中心に勉強していくことが大事です。
優先度 | 範囲 | 特徴 |
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非常に高い | ①放射線と放射能 | 放射化学は、割と簡単に理解しやすく、得点化されやすい範囲です。物理だけではなく、衛生でも実務でも出題されるので得点効率が高い範囲です。 |
②束一的性質 | 10年間で7回出題される頻出範囲です。束一的性質との関連項目として、等張溶液や等張化の計算などもあるので、必ずマスターしないといけない範囲です。内容 | |
③反応速度 | 物理化学の範囲で一番メジャーな範囲が反応速度になります。反応速度を勉強しておかないと薬物動態学の計算問題も解けないので早めに潰しこんでおきたい範囲です。 | |
④酸・塩基平衡 | 酸・塩基、pH関連、ヘンダーソン式、緩衝液など単発で比較的理解しやすい頻出範囲です。 | |
⑤定量分析 | 中和滴定、キレート滴定、沈殿滴定、酸化還元滴定など“滴定シリーズ”としてまとめて勉強すると全体像が見えやすく理解しやすいです。覚え・理解系、計算系どちらも出題される範囲です。 | |
⑥クロマト グラフィー | 薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなど“クロマトシリーズ”としてまとめて勉強すると全体像が見えやすく理解しやすいです。クロマトグラフィーとしては毎年出題される頻出範囲なので得点化できるように潰しこんでおきましょう。 | |
⑦NMR | 10年間で9回出題される頻出範囲です。物理でも化学でも出題されるので必ず勉強しておきましょう。 | |
高い | ⑧熱力学 | エンタルピー、エントロピー、ギブスエネルギー、ファントホッフプロットなど出題形式は多岐にわたりますが、“優先度:非常に高い”の範囲が終わったら手をつけたい範囲です。あまり深入りしないように注意しましょう。 |
⑨分光分析法 | 紫外可視吸光度測定法、蛍光光度法、原子吸光光度法の原理は、物理で学び、化学で使うので“優先度:非常に高い”の範囲が終わったら手をつけたい範囲です。化学の該当範囲とセット勉強していくと二度おいしい範囲です。 |
2.深追いをしない
上記で“出題頻度が高い範囲”と“他の科目にも応用が利く範囲”を紹介しました。『物理』の取り組み方として、はじめに「優先度が非常に高い」の①~⑦、次に「優先度が高い」の⑧、⑨の範囲の勉強を終わらせましょう。その他の範囲は、そもそも出題頻度が低く、難易度も高いので『衛生』、『薬理』、『薬剤』、『病態・薬物治療』、『法規・制度・倫理』、『実務』がある程度終わって、総得点を上げ終わってからやっても問題ないです。
『物理』を学ぶコツは、物理ができないからといって深追いしないことです(得点すべき範囲で得点し、あとはあきらめる。余った時間を他の科目に回すことが大切)。あくまで345問中の20問。国試全体でみると『物理』の出題%は5.79%しかないのです。そう思って気楽に勉強するとモチベーションを落とさずに取り組むことができます。
【薬の学校】の会員になると『物理』の授業動画を視聴することができます。物理で困らないようにしっかり準備していきましょう。